忘れ去られたベストセラーのえっちな奇書をみつけた
現代の日本においては大なり小なりどこの本屋に行っても並んでいる本の種類が変わることはない。よって私は普段読まないような知識を得るために地域に根ざした古本屋へ行って本を探すことを趣味としている。
そんな中、見つけたのが上の本だ。
明らかに奇書の香りがプンプンするのでインターネットで調べたところ、私たちの親世代の頃はよく読まれた本らしく(ほんまか?)、一方amazonや他の通販サイトを見ても新品の文庫は見つけることが出来なかった。
羽生選手がこの十年間、努力、勝利、そして栄光を積み重ねている間、私はこの十年間、豆腐の空きパックとトイレットペーパーの芯を積み上げ続けていた。 pic.twitter.com/4qUE4JpPUV
— 戌一(浦嶋パンティ) (@inu1dog1) 2018年2月18日
えろす福音書、で検索してもこんなツイートしか見つからなかった。そんなことある?
weblio辞書で調べたところwikipediaよりも詳細な情報が出てきた。カルピスの宣伝部!?完全に精(ry
そういうわけで、最近はこの本を休み休み読むことに時間を注いでいた。あまりに無駄な時間だ。ちなみにイービーンズの古本屋で入手し、著者の他作品も同様に並んでいたので興味を持った人は是非買ってみてほしい。
まずフロイトの勉強から
上のウィキにも書いてあるし、そもそも本書の著者欄にもあるのだが、彼はフロイトから大きな影響を受けている。
フロイト自体はエディプスコンプレックスなど教科書に出てくるようなワードを作り出し、精神分析の始祖的存在として知られている。夢診断でやたらと性に絡めてしまう人、という認識で通じる人も多いはずだ。
そんなフロイトさんだがまあ賛否両論の多いこと!
そもそも彼の理論は生前から批判が多いし、また現代の自分からみると「もはや精神疾患は薬で解決し脳内の物質で感情が左右されると考えるような時代なのだから、精神分析ってどんなアレなんだ?」と思ってしまっているため、偏見と向き合うためにまずフロイトを勉強するところから始めた。
実際、えろす福音書を読む時間よりフロイト入門を読む時間の方がはるかにかかったという裏話
正直言うと、私はフロイトに対して全くがっかりしてしまった。結局当時からの批判と同じで、フロイトの研究は彼のアイデアばかりでそれを証明するような実験結果や科学的な分析を見つけることが出来なかった。医学というより思想だ。そもそも現代は鬱や精神病患者には薬が出される時代であり、やはり本書を読んでも精神分析の有用性はよくわからなかった。
「入門書だけ読んでそれは言いすぎだろ!」という思いもあるが、私的には人文系のように原著を読みなさい派ではなく、理論は誰が述べても同じになるべきだ派である。とはいえその立場でも本来は教科書は2冊読むべきではある。ただ労力が足りず一冊で私は済ませてしまったので気になる人は色々読んでほしい
この時点でもはやえろす福音書への熱は、全く薄れている状態だった。
意外と面白い?
ところが本書に関しては想像よりも遥かに面白い!その理由はいくつかある。
- 古びていない文体
- むしろ新しさを感じさせるガバ推理
- 知識欲を刺激する引用の数々
ギリシャ神話から江戸時代の日本で流通していた本や短歌、(当時の)世界各国の性に関する臨床的研究まで至る筆者の豊富な「性知識」には全く驚かされるばかりで、しかも文がうまい!宣伝に従事していた経験が存分に生かされている(ような気がする)。
本の論理はフロイト的発想によるもので「ん?」となる部分も当然あるが、インターネットの掲示板に貼れば十分レスバトルできそうな切れ味ある性の文書が胃もたれするほど続くので、そりゃベストセラーで評判になるよな~と妙な納得感を覚えた。
もっとも引用元の記述がある部分とない部分があり、論じられている内容がどのくらい本当か判別することはとてもむずかしい。およそ70年前に発表されたような本であるから、鵜呑みにすることはできないものの様々なアイデアを得ることができるだろう。
最後に目次を紹介する。もうここからカロリーが高い。
時代の流れで忘れ去られた文化人
今となってはスマホから映像や小説、漫画まで様々な形でエロに出会うことのできる時代だが、「これこそ正しい性教育!」のように主張し、かつインテリの間で誰もが知るような文化人は存在しないように思われる。そんな中でも、そもそもフロイトが時代遅れという致命的欠陥はあるものの、文章や面白さは私からみるとあまり劣化していないように思われる。完全に忘れ去られてしまった人ではあるが、いつか再発見されたらいいなとは思っているので古本屋で見かけたときはぜひ手にとって見てほしい。今の時代、怪文書は一周回って最もおしゃれなトレンドであるからだ。
[追記]
https://web.archive.org/web/20200923231822/https://matome.naver.jp/odai/2141281491922129201
naverまとめはサ終してしまったが、幸運にもwaybackmachineから高橋鐵のまとめを見つけ出すことができた。ただ2ページ目、3ページ目へのボタンが壊れているため、他ページのアーカイブを確認するにはURLの後ろに「?page=2」このように入力する必要がある。
3ページ目の最後の文章、もはや資料もツイートも残っておらずツイート主は凍結されているため確認は出来ないが、もしほんとうに高橋鐵が発した言葉だとしたらむなしい。彼の活動の影響は現代に残っていないのだろうか?
少なくとも現代において、高橋鐵は完全に忘れ去られている